2021年7月6日火曜日

“出来事”への嘲笑と、“存在”への嘲笑。

 



今回の話題は、差別の問題についてです。



〈おかえりびと〉内では書いたことがありましたが、このブログでは初めてですかね。もちろん極めてデリケートなテーマで、いろいろと多方面に気を使いながらにはなりますが、僕なりに臆せずに語ります。



サッカーチーム:バルセロナFCに所属する若手、ウスマン・デンベレ選手によって、過去にスマホで撮られた動画が、「日本人の容姿や言語を侮辱している!」「こいつはレイシスト(差別主義者)だ!」とのことで、ネット上で只今絶賛・大炎上中。

動画をリークした大元のニュースサイトによると、この件での出来事の詳細は

① FCバルセロナが、2019年のプレシーズンに日本に遠征に来た際のもの。デンベレとグリエーズマン(同じくフランス人のスター選手です)が、ホテルで同部屋だった。

② グリエーズマンがTVゲームをしようとしたが、言語設定が日本語だったので、ホテルのスタッフを呼んで設定の変更を依頼した。

③ スタッフ(日本人の中年男性)が3人、部屋に来た。しかし、なかなか設定を直せないままで時間が過ぎる。

④ デンベレが動画を撮影し出す。日本人スタッフ達の顔にズームし、「醜い顔だな。恥ずかしくないのか?」と発言。前に座っていたグリエーズマンは振り返り、苦笑い。

⑤ さらにデンベレは「どんな後進国の言葉なんだ?」「お前の国は技術的に進んでいるのか、いないのか」などと発言。

・・・とのこと。






僕もこのニュースを一昨日、初めて見た際には「えぇぇぇ? マジかよデンベレ・・・けっこう好きな選手だったのに、そりゃないぜ」とガッカリしましたが、実際の動画を検索し見てみると、印象が大きく異なり。デンベレのノリ?的にも、グリエーズマンの反応的にも、いわゆる差別的な雰囲気、差別主義者が持つあの独特な空気感というかは、発しておらず。僕は欧米で、強烈な差別を直に受けた経験がありますから、なんというか“その空気”への感度が強めのアンテナがあるのですよ。

ということで、興味を持ったので改めてこの件を掘り下げて行くと。フランス在住の日本人の、けっこう多くの方々が「語弊がある」「誤訳がある」「この報道には悪意がある」等の指摘をしているのを知りまして。彼らの発信をフワッとまとめると、件の話は上記の①〜③までは同じで、

❹ デンベレが動画を撮影し出す。“設定を直せなくて困惑する表情の”スタッフ達の顔にズームし、「なんちゅう顔だ(辛気くさい、的な意で)。たかがゲームのためにこんなに人を困らせて、恥ずかしくないのか?(グリエーズマンに向けて)」と発言。前に座っていたグリエーズマンは振り返り、苦笑い。

❺ スタッフ達が話す日本語を理解できないデンベレは、「なに言ってんのか、わっかんねぇよ」。そして彼らが設定をいつまでも直せないことを揶揄し、「おいおい、ここは後進国か?」と発言。


・・・ん、同じフランス語なのに、訳す者が変わるだけで、悪意的な要素をサッパリと取り除くだけで、全く印象が異なりますね。特に④の「醜い顔」との訳には、明らかに悪意があるとのことで、これは現地フランスでは造形を悪く言う表現というよりも、「暗い顔」や「不機嫌な顔」といった類いの、その時の表情における“悪い顔”という意味だそうで。そして、その次の「恥ずかしくないのか?」は、文法的にその前の顔の話には繋がっていないとのこと。グリエーズマンの反応からして、彼に向けて発したものである、とのこと。

日本人とはいえ、フランスに住んでおり日常をフランス語メインで暮らす彼らが、これらの間違いを指摘している。これにより僕は「うはぁ~、大元のニュースサイト、どんだけ悪意があんだよ。ヒド過ぎるだろ・・・」と呆れましたよ。記事の記者(イギリスの新聞社、デイリーメール)が、わかっていてワザとそう訳したのであれば、それこそが許し難き暴挙だと僕は思いますけどね。ていうかそもそも、このデイリーメールという新聞社は、普段からかなりの“イワクツキ”なんですよ!! 嘘、でっち上げ等々、何でもアリの報道姿勢で、本国イギリスでの評価と格は最底辺のレベルです(欧州サッカー好きには、それで有名です)。

しかしながら、、これに関わるネット記事を連鎖でいくつか開いて見たところ、どこもかしこもコメント欄では「デンベレ、許すまじ!!」の大炎上状態。苦笑いしていただけのグリエーズマンも豪快に巻き込まれ、クソミソに書かれ(気の毒すぎますって!)。前述のフランス在住の日本人の方々に対してさえ、「差別主義者を擁護するのか?」「フランスに媚を売ってんな」といった感じで袋叩き。いやいゃ・・彼らは日本で暮らす僕らよりも遥かに、フランスのリアルを知っており、特に会話表現の知識においては雲泥の差なわけで、彼らの意見は貴重としか言いようがなく、素直に受け止めるべきだと思うのですが・・・


あえて極端なことを言えば、デンベレがいわゆるゴリゴリのレイシストなのであれば、彼は自分の部屋に日本人スタッフが入ることを拒否しますし、入れたとしても無視しますし、無視しなかったとしても「臭ぇよ」「近寄んなゴミ」的な蔑みをします。世界に蔓延るレイシズムというのは、そのレベルでの強烈な、根深き問題なんですよ。世界にはそんなロクでもない人間が、実際にけっこうな数、存在するんですよ。しかし、件の動画を見る限りでは、デンベレは日本人スタッフの“不甲斐なさ”に対して、「仕事のできないコイツらを動画に撮ってやれ」的なノリで嘲け笑っている印象です。もちろん、それ自体が極めて無礼で、幼稚で愚かな言動、簡単に言うと“バカ”で、バカ界ドラフト1位のバカすぎるバカなのは間違いありません。しかしこれは、差別の問題とは違う。この点を、むやみに混ぜ合わせるべきではないと、僕は考えます。


外国人の中には、スラングまみれの乱暴な会話表現が当たり前の者が、たくさんいます。ウチは安宿、ゲストハウスですから、とりわけしょっちゅう出くわします。ファッ◯ンを=クソと訳すとして、「憧れだったクソ日本についに来たぜ!クソゲストハウスのクソ宿主に連れられて、お好み焼き?とかいうクソ料理を食べてみたらクソ美味くてビックリ。しかしクソ箸の使い方がマジでわかんなくてクソだった」みたいな感じで、会話の節々に「ファッ◯ン〜」を挟み込んできやがります(笑)。これはもちろん大げさに書いておりますが、「ファッ◯ン・デリシャス(クソ美味い)」や「ファッ◯ン・チョップスティック(クソ箸)」なんかは、いろんな輩の口から何度も聞いた覚えが・・・

彼らの発する「ファッ◯ン~」を主とするスラングは、もはや口癖のようなもので、意図も悪意もなく、単に会話をリズミカルにするための要素みたいなもんなのです。僕は彼らのそんな文化?に理解を示しつつ、いちおう日本人として、旅の入り口側で接する立場として、「日本人はスラングはめったに使わないし不快に思う人が多いから、それ、やめた方がいいよ~」と伝えますけどね。


普段からスラング多用で口の悪いデンベレは、その時に起こった“出来事”に対して他者を嘲笑しただけで、その人の“存在”を嘲笑したわけではないと、僕は捉えたということです。僕だって例えば、とある国で、出会った現地人たちに散々嘘をつかれ、何度も騙されそうになった経験を元に「あそこでは人間不信になりかけた。旅する人は気をつけて!」といったことを語ったりします。しかしそこに、差別の意識は全く無い。「あの国の人間は、みんな嘘つきだ。日本に来るな」とか、言ったことも思ったことも無い。「こんなムチャクチャな嘘をつかれたぜ〜!」という実際の出来事を、笑い話としてネタにしているだけです。

しかしこれにだって、受け取る側の性質によっては作為的な悪意を伴いながら、「お前はレイシストだ」と攻撃して来る可能性があるわけです。そんな攻撃をさせる隙を完全に無くすべきならば、僕は旅の経験談をほとんど話せなくなります(笑)。ただでさえ“つまんない男”なのに、“つまんない上にトークのネタがない男”へとクラスアップします。



“出来事”への嘲笑と、“存在”への嘲笑。この二つは、全く異なるものです。

例えば僕が宿で、納豆を食べていて、外国人から「お前ら日本人って、そんな臭いもんをよく食えるな」と笑われても、僕はそれを差別だとは受け取りません。

しかしとある日に、どこかの外国人から、いきなり「日本人は納豆臭いから、近寄るなよ」と言われたとしたら、僕は怒り狂います。

(この例え話、facebookに書いたら日本人からの反応がゼロだった(笑)ので、ここにも最後に載せちゃいました。やっぱり皆さん、こういった話題はデリケートで触れづらいんだろうなぁ・・・)


というわけで今回は、皆さんにもこれらの違いを理解してほしい、差別の問題を考えてほしい、という話題だったのでした!!差別はもちろん、世界中で撲滅させるべきなのですが、その一方では、なんでもかんでも・むやみやたらに「これは差別だ!」と火を付けたがる、連続放火魔のようなおかしな集団がいることも、事実なのです。

皆さんは、そんな連中が起こす扇動に巻き込まれないよう、振り回されすぎないよう、冷静な視点でニュースを見てくださいです!!!



【追記】

先ほど、フランス人の友人と、DMでこの問題について語り合いました。

彼曰く「フランス人同士ではこんな感じの会話は、けっこう普通。デンベレはたしかに口が悪いが、俺らの日常の範囲内。もちろん、いいことではないけど。これで日本人を不快にさせてしまったことには、申しわけないと思う。それにしても、最初の報道の誤訳がヒドすぎる」とのことです。

デンベレが発表した謝罪文と、似たような感じですね・・・





0 件のコメント:

コメントを投稿