2015年8月8日土曜日

ホステル(ゲストハウス)経営って、儲かるの?




〈※追記〉
こちらは、約六年前(2015年夏)の記事です。ゲストハウス経営に興味を持つようになってこのブログに辿り着いたという方は、当ブログの“宿を始めたい方へ”カテゴリの他記事も、よろしければ、合わせてお読みください。特にホステル(ゲストハウス)経営って、儲かるの?'2020】という記事にて、最新事情に沿う形でアップデートされております。

〈※さらに追記〉
また、某・ゲストハウス開業セミナー(当方はやっておりません)への参加を検討されている方もいるかもしれませんが、その方にはセミナーの主宰の者の素性を調べ、彼の過去の行いや評判を知った上で、契約される事をお勧めします。余計なお世話ですが、被害報告を多数受けております。




先月後半からずっと、ゲスト数は常に11〜14人の間をさまよっています。もちろん以前よりは仕事量が増えたのですが、もうすっかりこのリズムには慣れました。掃除や予約の管理等、きっちりするべきところではきっちりとし、あとはこれまで通りの脱力モードで、の〜んびりと働いております。


ゲストが増えて、宿のリビングは毎晩ワイワイと賑わっておりますが、最近の僕は、そこに加わることがだいぶ減りました。日本人ゲストが全くと言っていいほど来ず、僕は朝から晩までひたすら英語ばかり話していますので、ちょっと脳内が疲弊気味でして。それに、「東京のあの場所がおもしろいぞ!」の話題は、ゲスト同士でガンガン情報交換して盛り上がっていますので、わざわざ僕がそこに口を挟むのは、余計なことだなぁ〜との考えに至ったのです。

「ゲストの宴に加わるのは、やめた」ではなく、あくまで「減った」ですけどね。以前はほぼ毎日、ゲストと一緒に飲んでいましたが、今は三日に一度くらいの頻度です。それ以外は仕事場(受付カウンター)に篭って、本を読んだりしています。ゲスト同士の会話はフワ〜ッと耳に入れておりますので、状況によってテキトウに参加しています。




さて、話は変わりますが、今回はカテゴリとしては久しぶりの “宿を始めたい方へ” の話題です。シンプルに、「ゲストハウスって儲かるの?」な話をします。経営が軌道に乗ったら書こうと、以前から考えていたことです。前回の “宿を始めたい方へ” は、今年の1月、オープンすらしていない状況で、エラそうなことをさんざん書きました(笑)ので、今回はちゃんと軌道に乗った上で、説得力を伴いながら、ゲストハウス開業を目指す方々へ、リアルな現状を伝えようと思ったのです。



まずは、収入について。

考えてみましたら、ゲストハウスほど売り上げのわかりやすい業種はないかもしれません。例えばベッド数(たいていの宿が公表しています)が100で、ゲスト1名様1晩の価格(こちらも当然、公表しています)が2500円の場合、フルならば一日の売り上げは100×2500=250000円となるわけで、どシンプルです。細かい収入は他にもありますが、その分、急なキャンセル等もありますので、とにかくただ、ベッド数に単価をかけてしまえば、だいたいそれがフルの日の一日の売り上げ額です。


YAWP!backpackers は100平米以下の小さな宿ですので、あくまでこの記事は、100平米以下の宿をいつか作りたい、という人のためのものです。それ以上の規模の宿については、僕は門外漢ですので語る資格はありません。

100平米の内、ベッドルームは計33平米以上(決まっています)。一人当たりの平米は1.5以上なので、どんなにキツキツにベッドを並べても、22人がキャパシティの限界です。しかし、22人ではトイレが6つ、洗面台が5つの設置が義務づけられてしまいます(これらは人数あたりの設置数が、行政によって決められています)。ベッド22にトイレ6に洗面台5・・・さらに当然そこにキッチンやシャワールームも加わるわけですから、100平米以下でキャパ22人は、確実にムリです。


というわけで、100平米以下ではベッド数キャパシティは、せいぜい15人くらいが関の山なのです(なぜ100平米で区切るの?という疑問には、ちょうど詳しく説明してくれているサイトを見つけました→(http://create-guesthouse.com/guesthouse-100m2/)ので、そちらをご参照ください)。



よって、ベッド数は仮に15とします。次に価格。東京にある人気の宿で、すぐに思い浮かべるのは、カオサン系やK'sハウス系、バックパッカーズジャパン系といったところですが、今日現在、カオサンは2200円〜、K’sハウスは2900円〜、バックパッカーズジャパンは2700円〜に値段を設定しております(グループそれぞれで複数の宿があり、宿によって価格は違います)。これらのグループ系列宿は、内装や立地にとてもこだわっており、そこいらのホテルなんかよりもよっぽどクオリティが高いのですが、その上でこの価格、この安さです。

ちなみに YAWP!backpackers が価格を2400円に設定しているのには、やはり “高砂” にある、という面が大きいです。当宿に泊まられるゲストは、都心に出るには確実に電車に乗る必要があります。宿から一番近い大きな繁華街は上野ですが、高砂→上野の移動にゲストは片道260円、往復で520円を費やすわけです。一方、浅草からであれば、上野までは徒歩圏内です(けっこう時間はかかりますが)。というわけで、“ちょっと離れにある” 宿だという点を考慮して、価格は安めに設定しました。


そんなわけで、場所にもよりますが、価格設定を3000円以上にするのは、やや現実的ではありません。ハナから人気宿と勝負する気がなく、ゲストが “望んで来泊する” のではなく、“しかたなく来泊する” 宿でいい、というのであれば、それでいいのかもしれませんが。「私は3000円以上の価値のある宿を作る!」という方は、上記のグループ系列宿に行きそのクオリティを知れば、それが相当に困難な作業であることが、きっとわかります。貯金が有り余っているのであれば可能かもしれませんが、開業資金1000万円以下では、なかなか叶うものではありません。

なので、価格は仮に、2600円とします(これがだいたい、都内のゲストハウス全体の、平均価格です)。



というわけで、ベッド数は15、価格は2600と設定。単純に二つをかければ、39000円が一日の売り上げ額となりますが、これはもちろん「フルになったら」の話でして、はっきり言ってそんなに簡単に毎日フルになれるわけがありません。シーズンごとに、波がありますし。新規のこだわりゲストハウスはここのところ、ガンガン増えていますし。


というわけで、宿泊ゲスト数一日平均は、せいぜい10くらいと考えた方がよさそうです(ムチャクチャ甘めの設定です)。もちろんハイシーズンにはフルの日が続くこともあるでしょうし、ローシーズンには5を切ることもあるでしょう。なんにしてもとりあえず、平均で10とします。

よって、
2600(価格)×10(ゲスト数)=26000円

これが、100平米以下キャパシティ15人の宿で予測できる、一日の売り上げ額です。
それに×30をして、780000円が、一ヵ月のだいたいの売り上げとなります。



次に、支出。

最も大きい支出は、やはり家賃ですね。100平米以下、都内、駅から5分以内、仮にそれらの条件を満たすものであれば、だいたい一ヵ月で20万〜30万が相場です。

それから借金の返済。前回(宿を始めたい方へカテゴリ)の記事では、開業資金を最低で600万とし、自己資金を300万、融資300万としました。よってここでは、それをベースにして計算することにいたします。もちろん返済計画は融資元との相談の上で決まりますが、まぁ月に5万(6年で満了)くらいの返済額でしょうか。

さらに、ホステルサイトに宿を登録する場合は(僕は3ヵ月間チャレンジしましたが、登録無しでの集客は、かなり苦しいです)、それらサイトに支払う手数料が、売り上げの12%前後かかります。よってここでは、9万円とします。

そして光熱費。これが想像以上に大きく、かなり痛いです。特に電気代は、軽く3万は越えます。というわけで、ガス代と水道代も合わせて、こちらは月に4万とします。

あとは、通信費。ネットや電話のことです。まぁ、月1万とします。

もちろん、必要経費もたくさんあります。トイレットペーパーやテッシュペーパー、シャンプーなどの消耗品が主です。こちらもざっくりと、月1万。シーツの洗濯を業者に依頼する場合は、この額は一気に跳ね上がりますので、ここでは “シーツはすべて宿で洗う” ことにいたします。

最期に、人件費。オーナーが独りで全部をやるのは、確実にムリです。休みが全くないです。仕事量自体は決して多いわけではないのですが、常にゲストの質問や要望に対応できるように、アンテナ立ちっぱなしの状態でいるわけですから、はっきり言いまして、精神面での自由はありません。例えば予約の管理。これはただ、数字とニラメッコする仕事なわけではありません。毎日、世界中のいろいろな方から、質問等のメール&電話が来ます(実はこれがけっこう、大変なんですよ・・・)。これら新規の問い合わせを細かくチェックし、発見し次第、即座に対応する必要があります。

よって確実に、誰かを雇う必要があります。ボランティアでやってくれるという人が見つかれば最高ですが、仮にアルバイトを雇う場合、東京都では最低賃金がおよそ時給900円です。一日何時間、スタッフに働いてもらうのかはなんともいえないところですが、ここではテキトウ&少なめに、6時間とします。

①家賃          25万
②借金返済         5万
③ホステルサイト手数料   9万
④光熱費          4万
⑤通信費          1万
⑥経費           1万
⑦人件費         16万

①〜⑦を合計すると、61万。前述の、月の売り上げ額が78万ですから、
78ー61で、月の利益は、17万となります。

なんとなく、大卒サラリーマンの初任給の手取り額っぽい金額が出てきました。もちろん上記の①は、物件をキャッシュで購入しているのであれば消えますし、②も、自己資金のみでの開業に至れば消えます。⑦は、ボランティアでやってあげるよ〜の人脈があれば、消えます。

しかし、①②が消えていない状態で、仮にオーナーが二人体制で起業するとすれば、(スタッフを雇う必要性が減るので、⑦は半分にします)利益は25万。法人税等を引き、2で割れば、一人当たりの月収額はおよそ10万です。


なんだか生々しい話ですが、そういうことなのです。 単独オーナーでも、せいぜい月収は17万ほど。毎日休み無しで働いて、この額です。オーナーが二人なら、休みはあるでしょうが月収は10万。これが三人にでもなろうものなら、一人8万くらいになってしまいます(この場合、⑦は消しました)。

そんな感じで、100平米以下・キャパ15人・客単価2600円・開業資金600万円の宿での、共同経営者数別、一人当たりの月収額を、なんとなくまとめてみます(光熱費やアルバイト人件費は、バランスよく調整しています)。二人 or 三人での起業は、法人扱いとし、法人税分も引いていますが、所得税は面倒なので引いていません。


               〈経営者数〉
                 1人    2人   3人
〈一日ゲスト数〉
   6       1万   1万    0万
   8       9万    5万   4万
   10      17万   10万   8万
    12     25万   15万   12万
    14     38万     21万   17万


個人での起業ならば、ゲスト数一日平均10人で、月17万。ゲスト数平均が8以下では、もはや生きて行けません。12でまぁ普通、14になって、やっと「儲かっている」と言ってもよさそうな月収額です。14というのは実質、“一年中ずぅ〜っとフル” 状態のことなのですが・・・。

しかし、僕のところにゲストハウス開業の相談に来る方々は、二人 or 三人でやりたい、というケースが非常に多いのです。上の表の通り、二人 or 三人での起業で、月収が20万を越えるのは、かなりの困難です。「おそらくキビシいよ」と言うと「では副業で他の仕事も...」という方も多いのですが、裏を返せばそれは、ゲストハウス業には本気で取り組まない、ということです。


もちろん、理解はできます。開業資金を貯めるのって、大変ですからね。僕が「最低限必要ですよ!」に設定した自己資金は、300万円。一人でここまで貯めるのって、簡単なことじゃあないです。でも、100万〜200万くらいの貯金なら、大学卒業後に正社員として10年ほど働いた者ならば、普通にあると思います。これを二人で合わせれば、もしかしたら300万を越えます。もしくは、必死に貯めた200万ずつを、三人で出資し合えば、合わせて600万。これで融資を受ける必要がなくなり、面倒なローン審査もなし。借金無しで、「僕らはナカマだぁ〜!」で、ノリノリで突き進んでしまうかもしれません。


しかし、二人で起業するということは、利益も2で割るということです。一緒に起業したナカマの人数、それは実はすなわち、コストなのです。負担なのです。ナカマが多ければ多いほど、あなたは儲かりません。これは当然の話なのですが、なぜかその視点が抜け落ちている人が、非常に多いのです。


「今、ゲストハウスがアツい!」「ゲストハウスは流行りだし、儲かりそう!!」とか考えている方々は、いろいろな宿に行き、オーナーさんに聞いてみて下さい。「儲かる仕事だよ」と言うオーナーは、きっと一人もいません。それは決して、新規参入を増やしたくなくて言っているのではありません。本当に、儲けを求めてやるような仕事ではないのです。


というわけで僕は、“一人で、のんびりと、儲けとかは気にしないでやりたい” というゲストハウス開業志望の方のみを、今後は応援したいと思います。How to 等で、手伝えることがあれば、手伝います。逆に、“ナカマと一緒に!” や “お金儲けしたい!” を前提に開業を検討されている方とは、僕は距離を置きます。目線が根本的に違いますので、相談に来られても、おそらくバッサリと切り捨てます(笑)。



ゲストハウスが、“流行り” を理由に、増えてほしくないのです。利益予測の綿密な計算をせずに、ナカマ内の無謀なノリで、突き進んでほしくないのです。ちゃんと現状分析や市場動向予測のできる smart なゲストハウスオーナーと、一緒に業界全体を活性化させたいのです。


・・・ハイ、ちょっとカッコつけました。まだオープンして四ヵ月、軌道に乗って一ヵ月のくせにです(笑)。しかしこの、「ナカマ同士で一緒にゲストハウス開業しようぜ!」ブーム、そろそろいい加減にしてほしいと思いまして。大学のサークルのような気分で、起業を検討している若者たちに、ガツンと、現実を突きつけたかったのです。



まぁあくまで、ご参考までにです。ただでさえ最近、日本人ゲストが全然いないのに、調子に乗ってまたこんなエラそうなことを書いたら、ますます減ってしまうかもなぁ〜(笑)。


混みすぎてハチャメチャなリビング





12 件のコメント:

  1. 大変べんきょうになりました。

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  2. 私もゲストハウス経営を考えています。
    決して流行ではなく、あの空間が好きなので、
    自分でもそれを提供したくて。
    リアルな数字、大変参考になりました。

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  3. 私も大変勉強になりました。
    いつかは都内でゲストハウスの運営を…と甘い考えで思っていました。ありがとうございます。

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  4. はじめまして 借金の返済とありますが 投下資本そのものの回収はどのようにされるのでしょうか 金利が 元本回収と考えても1000万であれば 17年近く必要となるわけで 途中で改修も考えると このあたりが相当ハードル高いなと思ったのですが教えてください。

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    1. 開業にあたり、僕はビルを購入し、それを改修しているわけで、消費ではなく投資という認識です(経営難で首が回らなくなるようなら、売ります)。また、資本は自分の今後の有意義な人生のために使い切ったと考えておりますので、回収はそもそも目指しておりません。ストレスのない仕事量になるよう、受け入れのゲスト数をコントロールしているのは、そのためです。

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  5. 真摯な対応に非常に感謝しております。理解できました。

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  6. ご質問です。15人収容とのことですが、シャワー、トイレの数はいくらでしょうか。

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    1. あくまで葛飾区の旅館業法での話ですが、トイレは最低で2つ、定員6〜10人で+1、10〜15人でさらに+1といった形で、設置が義務づけられています。シャワーに関しては、数の規定はございません。

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  7. 留学中の高校生です。将来海外か日本で外国人向けのホステルを営業するとゆう夢があります。そこで質問なんですが、大学や専門学校はどのようなところに行き学ばれましたか?また参考になるアドバイスなどがあれば是非お願いします!

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    1. 僕は大卒ですが、ホステル経営には何の関係もない方面です。この仕事には、何を学んだかはどうでもよくて、何を経験したかの方が重要だと思いますよ。僕は、ウチに来るゲストのほとんどの国には訪問経験があるので、「行ったことがある上で、その国について語れる」というのは、大きなアドバンテージですね。

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  8. ゲストハウス運営をしたくてここにたどり着きました。とても分かりやすくて、なるほどと思いました。僕は東南アジアのゲストハウスをいくつかめぐり、これを日本でもやりたい!と思いました。特色と集客が本当に大変なのだと思います。宿だけで完結しないビジネスモデルが出来れば…と、誇大妄想しています

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    1. あ、すみません・・。ずっとコメントに気付かずでした。提供側(僕ら)が集客に試行錯誤しようとも、大多数のゲストは結局のところ値段と立地で選ぶので、そこにジレンマは発生しますよ。まぁ、開き直るしかないですが。

      コロナ騒動が終息したら、業界は復活できるはずだと信じておりますので、おはぎの山さんによるステキなゲストハウスの開業を、お待ちしておりますね!!

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